日本政策金融公庫 新創業融資と制度融資の比較
日本政策金融公庫の「新創業融資」と制度融資の「創業融資」、どちらを利用すれば良いのか?どちらも似ているようで細部は微妙に異なります。そこで、新創業融資と東京都の制度融資を7つの項目で比較した表を下記に記載します。
日本政策金融公庫「新創業融資」 | 東京都制度融資「創業」 | |
---|---|---|
申込期間 |
開業前 |
開業前 |
勤務経験の要件 |
6年以上現在の企業に継続勤務 |
制限なし |
連帯保証人の要否 | 法人の場合は不要 | 代表者 |
自己資金の有無 | 融資額の10分の1以上 | 不要 |
融資限度額 | 3000万円 | 最大2500万円 |
金利 |
2.36%〜2.95% |
1.70%〜2.30% |
返済期間 | 各種融資制度で定める期間内 |
運転資金7年以内
|
各項目の詳細については下記にてご説明致しますので、先ずは表をご覧頂いて概要を把握して頂ければと思います。
1.申込期間
申し込みができる期間は東京都の制度融資の方が圧倒的に有利です。日本政策金融公庫が「2期を終えるまで」と決算期を基準にしているのに対し、東京都の制度融資では「5年まで」と年を基準にしています。
では、どのタイミングで申し込むのが良いでしょうか?当事務所では開業前の申し込みをお勧めしています。
日本政策金融公庫は2期以前、東京都の制度融資では5年以内の期間があるのだから、「開業してから事業の様子を見極めて申し込んでも遅くはないのではないか?」と思われるかも知れません。
しかし、事業には不測の事態が付き物です。計画通りの売り上げが達成できなかった、仕入れ先を変更せざるを得なくなり原価が上がって利益率が低くなった、などは十分起こりえることです。
その結果万が一債務超過となってしまった場合、融資がおりる可能性は著しく低くなります。こうした事態を回避するためにも早い段階、できれば開業前の申し込みを行う必要があるのです。
2.勤務経験の要件
勤務経験の要件については東京都の制度融資の方が有利です。
日本政策金融公庫の要件については様々なパターンが用意されており、表に記載した以外の要件もあり、一見様々なバリエーションがあるように見えます。しかし、特殊な要件も多く、一般的に利用し易いとは言い難いのが現実です。
業務経験の無い異業種の事業を興す場合は場合は「他人を雇用する事業をする」という要件で申し込みをする場合が殆どです。
業務経験があるに越したことはありませんが、無い場合はフランチャイズシステムを利用するのも一つの手段です。フランチャイズでは仕入元は確保されていますし、販売のノウハウも共有されるはずですので、この点を事業計画書で上手くアピールできれば業務経験が無い事はそれほどマイナスにはなりません。ご自身が始めようとする事業にフランチャイズシステムがあれば、これを利用するのも選択肢の一つです。
3.保証人の要否
法人で申し込む場合、保証人の要否に関しては日本政策金融公庫の新創業融資が圧倒的に有利です。新創業融資を法人で申し込んだ場合は代表者が連帯保証をする必要がありません。創業時に利用できる融資には様々なものがありますが、第三者のみならず代表者の連帯保証も不要なのは新創業融資しかありません。
4.自己資金の有無
日本政策金融公庫の新創業融資では「事業開始前、または事業開始後で税務申告を終えていない場合は創業資金の10分の1以上の自己資金が必要」となっています。つまり、開業前または開業後1度も決算を迎えていない場合は「決算書が出せない=事業の状態が分からない」ので、自己資金で担保する必要があるのです。1期以上2期前の場合は自己資金は不要ですが、決算書の提出が必要になります。
対して東京都の制度融資には自己資金の要件がありません。この点だけ見ると、東京都の制度融資の方が圧倒的に有利という事になります。
しかしこれはあくまで制度上明記されているだけで、実際に自己資金が0でも融資を受けられるかと言うと、そんな事はほぼありません。やはり事業をするにあたっては自己資金が必要なのです。
ではどの程度必要なのかと言うと、「融資希望額の3分の1程度」が目安です。つまり、1500万円の融資を受けたいのであれば、500万円の自己資金が必要という事です。実は日本政策金融公庫の場合も同様で、10分の1というのはあくまで制度上の話であり、実際は3分の1程度の自己資金が無いと、審査を通るのは難しいとお考え下さい。
つまり、自己資金に関しては日本政策金融公庫も東京都の制度融資も、実質的に同等という事になります。
5.融資限度額
融資限度額においては日本政策金融公庫の新創業融資のほうが額が大きく有利です。
新創業融資では限度額が3000万円で、うち運転資金は1500万円となっています。
対して東京都の制度融資では幾つかのパターンに分かれていますが、最大の限度額は2500万円です。
自己資金の無い個人が1ヶ月以内に個人事業または2か月以内に法人を設立して事業を開始する具体的計画がある |
1000万円 |
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自己資金のある個人が1ヶ月以内に個人事業または2か月以内に法人を設立事業を開始する具体的計画がある |
2500万円 |
創業した日から5年未満の中小企業者および組合 |
2500万円 |
6.金利
比較表をご覧になって頂ければお分かりの通り、金利についてはほぼ同等です。ただし、制度融資では金利とは別に保証料が必要となるため、その保証率によっては総合的に日本政策金融公庫の方が有利となります。
7.返済期間
返済期間については、どちらが有利とは言えないのが実情です。
日本政策金融公庫を使用した場合、返済期間についてはどのどの融資がベースになるかで異なります。ベースとなる融資の種類については当サイト内の日本政策金融公庫の融資メニューのページに記載がありますので、そちらをご覧ください。
例えば、新規開業資金をベースとする新創業融資の場合、設備資金は20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金7年以内(うち据置期間2年以内)となります。
制度融資は設備資金は10年以内(うち据置期間1年以内)、運転資金7年以内(うち据置期間1年以内)です。
据置期間とは元金の支払いを棚上げして、利息のみを支払えば良い期間のことです。通常返済は元金に利息を加えたものとなりますが、据置期間中は利息のみ支払えば良いので、事業が軌道に乗りにくい開始当初などでは非常に有難い制度です。
ただし、据置期間を利用した場合、元本は据置期間を引いた年数で返済しなくてはならないため利用には注意が必要です。例えば、設備資金として制度融資で融資を受けた場合で据置期間を1年利用したならば、元金は9年で支払わなくてはならなくなります。